「言葉にこだわる姿勢を大学院入試でつけておくことの重要性」

皆さんこんにちは。ファイブアカデミー講師のTです。
前回は「公認心理師・臨床心理士試験と心理系大学院試験の違い」をテーマにしましたが, 今回は心理系大学院試験に焦点を当て,「言葉にこだわる姿勢を大学院入試でつけておくことの重要性」についてお話したいと思います。

【心理職の商売道具って何だろう?】


 心理系大学院入試を考えている人は, 将来的に公認心理師や臨床心理士の資格を取得し,心理職として働くことを希望していることが多いのではないかと思います。働くということはもちろん, お金を稼いで生活していくことにほかなりません。では, 心理職というのは何を商売道具にしているのでしょうか?答えは人それぞれかもしれませんが,私が思う心理職の商売道具とはズバリ「言葉」です。これは,私が院生時代に教員に言われた言葉でもあり, 実際に私が公認心理師・臨床心理士になった今でも「確かにその通りだな」と実感し大事にしている考えでもあります。

 例えば心理職が行う業務で真っ先に思い浮かぶのがカウンセリング・相談ですが, 無論これはクライエントと「言葉」(厳密には非言語的メッセージもありますが)を用いる作業です。他にも, 心理検査の所見文書を作成したり, 研究論文や書籍を執筆したりと,心理職として働くうえで「言葉」は欠かせないもので, かつその「言葉」にこだわる姿勢が心理職にとって非常に重要になってきます。どんな「言葉」を使えばクライエントに伝わるのか,理解されるのか, このようなことを考えて心理職は「言葉」をチョイスし, ひいては声のトーンや姿勢まで考えてメッセージを発していきます。

 以上のことから, 心理職には「言葉にこだわる姿勢」が重要であることがうかがえます。これは心理職になる前の大学院生時代も同様です。多くのレポートを執筆することや, カウンセリングのロールプレイ,心理検査の報告書作成, ケースカンファレンスの資料作成, 実習の報告書,修士論文執筆など,「言葉」を用いて他者にメッセージを伝えるという経験を大学院で多く積むことになります。無論, 「言葉」は昨今の報道からも分かる通り, 人を救うことにも命を奪うことにもつながる,人間が生きていくうえで重要なファクターです。その「言葉」を心の専門家である心理職が粗末に使ってよいはずはなく, むしろ「言葉」を用いる専門家である必要性があると考えます。

 心理系大学院入試のことを考えても, 試験を評価する大学院の教員というのは, 多くの研究論文の執筆や査読, メディア出演などの経験がある方々も少なくありません。つまり, どのように「言葉」を用いるかという点で非常に熟練した方々であることが想像できます。言い換えれば,「言葉」の使い方に敏感である可能性が高いということです。
心理系大学院入試の形式を振り返ってみると, 多くの大学院で論述形式の問題が設定されています。このことから, 受験者の「言葉」を用いる能力を問うていると捉えることができます。どのような「言葉」を選択し, どのような論理で, どのような文章表現でメッセージ(解答)を作成できるかが評価されるということです。

【心理系大学院試験は言葉の訓練が重要】


したがって, 「言葉にこだわる姿勢を大学院入試でつけておくことの重要性」という話になるわけです。入試合格のためになることもさることながら, その先の心理職として生きていくうえで欠かせない姿勢・能力を養うことにつながります。心理系大学院入試の専門科目で設定される論述の問題に対して, 皆さんはどのような意識で解答(メッセージ)を作成しているでしょうか?その解答は相手に伝わりやすい(理解されやすい)メッセージになっているでしょうか?そういった観点で推敲を繰り返し練習しておくと, 試験合格にも心理職としての業務にもつながる経験になることと思います。

【和訳→日本語の文章を書くこと!】


加えて, これまで述べてきた「言葉にこだわる」観点が不足しがちなのが, 心理系大学院入試における英語の解答です。私自身, 受講生に英語の指導をするとき, とりわけ和訳をする際に必ず言っていることがあります。それは「日本語として分かりやすい文章を書いてください」ということです。「英語を日本語に訳しなさい」という問題が入試でもよく出されますが, それはつまり日本語の文章を解答として書くということです。英語を和訳すると, よく日本語としてあまりなじみのない(不自然な印象をうける)文章が解答として出されることがあります。おそらく英文に対して懸命に辞書にあたり, 日本語に置き換えた結果だと思います。しかしながら, 和訳というのはとどのつまり日本語の文章を書くことなので,日本人がその解答を読んだときに自然に理解できる日本語になっている必要性があるのです。英文和訳になると,この観点が不足することが多々見られます。この時も同じように「言葉」にこだわり, 伝わりやすい解答を作成する姿勢が求められます。特に英語の場合, 1つの単語に複数の日本語の意味が該当するものが多々あります。そのような時は, どの日本語の意味を選択するのか,文脈や書き手の立場などを踏まえて判断することが求められます。他にも英文が論文なのか, エッセイなのか, 会話文なのかによって, 日本語の文章の表現も当然異なってくるはずです。英文和訳を推敲するときは,和訳した日本語の文章を読んで, 日本語の文章として読みやすいか, 意味が理解できるかチェックすることが必要かと思います。

【最後に】


このように,心理系大学院入試の問題では,「言葉」を用いる能力が問われるものが数多く存在します。これを良い機会とし, 「言葉にこだわる姿勢を大学院入試でつけておく」ことで,心理職としての重要な姿勢を身に着けていただければと思います。
それでは今回はここまでです。お読みいただき, ありがとうございました。

【今回の一言】
「否定と出会うことが出発点である」・・・Freud,S.