「第3回公認心理師試験にむけて」

 皆さんこんにちは。ファイブアカデミー講師のTです。
 前回の記事執筆から間が空いてしまいました。様々な業務に追われ、記事の執筆に手が回らなくなっていましたが、振り返りの意味も込めて、書いてみたいと思います。
 先にお断りをしておきますが、試験に向けた具体的なアドバイス等を書くつもりはありません。試験を直前に控えた今、受験される皆様それぞれのスタイルやイメージが完成されつつあると思いますので、自身で作り上げた・慣れ親しんだ学習方法や考え方を大切にしていただきたいと思います。

【分からないことへの忍耐】


 第3回公認心理師試験の特徴は、何と言っても皆様もご存じのように、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、試験が延期になったことです。受験生の皆様はモチベーションコントロールが困難であった(今もそうかもしれません)と思われます。講師という立場でも、試験を実施してほしい反面、試験実施による感染拡大へのリスクも心配であり、葛藤を抱えながらの活動であったと感じています。試験日が決定されてからも、予定通り実施されるのか、感染リスクはどうなのか等、分からない要素を抱えながら試験への準備を受験生はされていたのではないかと思います。中には受験を見送るという選択をされた方もいらっしゃると思います。どのような選択にしろ、そこに正解や不正解はないと思いますし、このような状況の中で選択をしたことそれ自体が、勇気あることだと思います。
 コロナウイルスという目に見えない脅威にさらされ、先行きの見えない不安を抱えながらの試験への準備は、さながら「分からないことへの忍耐」が求められる経験だったと思います。この「分からないことへの忍耐」というのは、心理職に求められる素質の重要な1つのように思われます。

【分かろうとしつつ、分からないことを受け入れる】


 心理職として対人援助をしていく上では、クライエントを理解していくことが必要です。しかしながら、クライエント、ひいては他者を理解するということは簡単なことではありません。専門家であり、心理職という支援者の立場であれば、クライエントを理解し、より良くしたいという気持ちになることもありますが、その気持ちが先走ってしまうと、相手を分かったつもりになるおそれがあります。言い換えると、相手を理解しなければならないという気持ちから、分からないという状態に耐えかねてしまうということです。しかしながら、分かったつもりになるということは、分かろうとするプロセスに蓋をすることにもつながります。したがって、他者を理解しようとしつづけるためには、分からない部分(分からない自分)を受け入れることが必要ということです。一見すると二律背反しているようにも見えますが、二律背反というのは人間が人間たるゆえんであると私は思っています。精神分析の用語を用いれば、大人の部分である超自我と、子どもの部分であるイドが衝突し葛藤を抱えるように、人間とは単色ではなく様々な矛盾や葛藤に満ちているからこそ人間らしさがでると感じられます。
 葛藤や矛盾を抱えている人間を相手に支援をしていく心理職が、自身の葛藤や矛盾を受け入れ、それに耐え忍ぶことが必要であるのは、ある種道理にかなっているように思われます(言うは易し、行うは難しですが…)。もちろん、クライエントが混乱しているときは、支援者が状況を整理整頓するサポートを行うことが必要なケースもありますが、整理整頓し、分かりやすくすること・明らかにすることにもデメリットはあります(話すと長くなるので割愛します)。

【分からないことに耐えつつ、判断・選択をしていく】


 第3回公認心理師試験をめぐっても、受験性の皆様は「分からないこと」を抱えながら、考え悩み選択・判断をしたと思います。その経験は、対人援助の分野において今後必ずや活きてくると思います。「これでいいのだろうか?」「これじゃまずいかもしれない」といった不安や葛藤から逃れるためにとりあえずの正解や答えを出し、そこでプロセスを止めてしまうのではなく、不安や葛藤を抱えそれと向き合うことで、継続的な学習や自己研鑽、新たな気づきが生まれてくると思います。そのうえで、その時にできる選択・判断をし、それに固執しすぎることなく柔軟に吟味しつづける姿勢を保つことが肝要です。

【最後に:試験本番でも分からないことはきっとある】


 先に具体的なことは書かないと言っておきながら、少しだけ関連のあることなので参考程度に書かせていただきます。
 試験本番では、おそらく分からない問題は出てきます。大切なことは、分からないことに焦らず、固執しすぎないことです。分からないことに焦ってしまうと、時間のロスやペースの乱れ等につながるリスクがあります。分からない問題は出てくるものだと受け入れて、一定の時間をかけて吟味し、その時にできる選択・判断で解答をしましょう。分からないこと(問題)に目を奪われて、他にある分かってあげられるもの(問題)に注意が向かなくなってしまうと、勿体ないです。

今日の一言
「うにゃうにゃした話を、うにゃうにゃしたまんま聞く」by 院生時代の教員


※補足
 上記の言葉は、カウンセリングのロールプレイをしていて教員から言われた言葉です。カウンセラーをしていた私は、クライエントの話を要点を絞って整理しながら応答していましたが、その様子を見た教員から言われました。私としてはクライエントの話を整理して分かりやすくし、理解に努めつつクライエントの置かれている状況を明確にしようと思っていました。しかし今思うと、前述のような応答に傾注しすぎてしまうと、クライエントが抱えている混沌とした心境や世界を、カウンセラーがありのままに感じ取る・理解することが難しくなってしまいます。