公認心理師・臨床心理士資格について

皆さんこんにちは。ファイブアカデミー講師のTです。
前回は第4回公認心理師試験に向けた学習スケジュールについての記事でした。
今回は「公認心理師・臨床心理士資格について」をテーマにお話ししようと思います。
心理の資格として初の国家資格である公認心理師が誕生してはいますが、臨床心理士資格の取得を目指す方も少なくありません。公認心理師とどのような違いがあるのか、社会的にどのように位置づけられているのか、私なりに考えてみたいと思います。

資格の概要

公認心理師
資格形態:国家資格、名称独占資格(現状更新制度はなし)
試験:マークシート試験
取得ルート:2022年(第5回試験)までは、受験区分G(いわゆる現任者)での受験が可能だが、基本的には大学・大学院での所定のカリキュラムを満たすことで、受験資格を取得、その後試験に合格する。

臨床心理士
資格形態:民間資格(更新制度あり)
試験:一次試験(マークシート・論述)二次試験(面接)
取得ルート:基本的に、臨床心理士指定大学院を卒業することで受験資格を取得できる。

 臨床心理士については、資格に更新制度が設けられていることから、生涯的な学習をしっかりと仕組みとして設定し、有資格者に求めていることがうかがえます。また、マークシートだけでなく、論述や面接試験が課されていることから、専門的知識を基に論理的に表現することや、自身の考えを述べること、他者に分かりやすく伝える能力などが求められており、単純な暗記学習では対応が難しいと考えられます。
 また、マークシート試験においても、公認心理師試験ではこれまで出題されていないロールシャッハテストに関する設問や、力動的心理療法の深い理解を問う設問などがあり、出題領域や問われる知識の程度に違いがあります。

社会的な位置づけ

公認心理師
 国家資格ということもあり、社会的な注目度、将来性という面では優れていると思われます。今後の課題として挙げられるのは社会的信頼かと思います。国家資格という点では信頼できる部分がありますが、誕生したばかりの資格ということもあり、実際に社会の中でどのように役立つのかという実績を積み重ねていく必要があると言えます。今後の活動を通して、社会に貢献できる存在であることを、少しずつ実績を重ねていくことで示していけば、より社会的信頼の高い資格となっていくかと思います。
 加えて、国家資格ということもあり、公認心理師である心理職の待遇の改善や市場ニーズの変化が生じる可能性があります。診療点数についてや、加算人員要件の1つとして公認心理師が業務に従事していることなどが認められつつあるため、市場としては公認心理師資格保持者を優先的に雇用したいという事業所や求人なども出てきています。その一方で、前述の社会的信頼性・実績の少なさから、「結局公認心理師は何ができるのか?」という疑問がぬぐえないところもあり、公認心理師資格ではなく、臨床心理士資格保持者を優遇するものも散見されています。あるいは公認心理師と臨床心理士の両資格を保持していることが要件とされている場合もあります。

臨床心理士
 これまで積み上げてきた実績、それに伴う社会的信頼という点では公認心理師に勝るものがあると捉えることができます。しかしながら、民間資格であるという性質上、待遇面や認知度の面で中々発展・拡大が容易ではなかったと思われます。無論、公認心理師資格の誕生を受け、市場からの臨床心理士資格保持者への見る目も変わってきています。市場のニーズに広く対応するという点においては、公認心理師と臨床心理士の両資格を保持していると、互いの不足部分を補うことになり、ベターかと思われます。

 実践的な観点から

 とりわけ、現任者枠で公認心理師資格を取得された方の中には、心理療法や心理検査の経験が少ないという方も一定数いらっしゃると思います。その点、臨床心理士については、少なくとも大学院の時点で心理療法や心理検査に関する講義や実習を通じて触れた機会があるはずです。なおかつ、試験においても心理療法や心理検査について深く問われるため、対策として学ぶ時間があったはずです。このような違いは、現任者が受験できる移行措置期間が終了すると、両資格の受験をする方が大学院修了者がベースになってくるため、自然と少なくなってくるかとは思います。ですので、現状だと、現任者枠で公認心理師になられた方の中には、実際に心理療法や心理検査の実践の場面になったときに、具体的に何をどのようにしたら良いのか分からないという方も一定数いらっしゃるのではないかと思います。
 そのような場合、様々な学会などで研修が行われていますので、そちらで継続的に学習をしたり、より丁寧に時間をかけて学びたいという場合は、臨床心理士指定大学院に入学して学習をしつつ、臨床心理士の資格を目指すのも1つの方法ではあります(時間・費用・労力はかかりますが)。

まとめ

 公認心理師資格が誕生してまだ日が浅いこともあり、両資格が今後どのような位置づけにされていくのか、注目したいところです。国家資格と民間資格というところだけで見ると、国家資格の方が価値の高いように映りやすいですが、現状両資格は相補的な特徴があるようにも捉えられますので、可能であるならば両資格を保持しておくことが良いと思います。ですが、結局はそれらの資格を取得することの理由、その資格をどのように活かしていきたいのかによりけりです。
 いずれにしても、継続的に様々なニーズや課題に真摯に対応していくことで実績を積み重ねていき、両資格がより一層社会の中で認知され、必要な人に心理的支援が十分に提供できる社会になっていくことを願うばかりです。

今回の一言
「自由を求めて旅に出て、不自由を発見して帰ってくる」
リリー・フランキー 「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」 新潮文庫より引用